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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
……どう観るな、きょうの風雨を」
と、意見を徴した。
しかし尊氏の前を畏れてか、なかなか率直な声は出ない。吶々と述べる者もなくはないが、いっこうに明確でなく「――まずはすぐの御船出は、途中御難儀かとぞんじられまする」といったような類の意見ばかりだった。
が、なかで一人、椿ヶ浦の船頭だけは、
「てまえ一存では、この雨も月の出頃にはやみましょう。風はそのまま、変ることもなく、明朝までも追ッ手に相違ございません。お日向きは上々吉、御大慶に存じたてまつりまする」
と、はっきりいった。
尊氏はこれを聞いているあいだに「ウむ」「むむ」と、二度ほどうなずいていたが、
「椿ヶ浦の船頭、よく申した。そちの申すに従って、やはり今日の戌の刻(午後八時)にここを出港とさだめよう。ついては諸人どもも、それときまったからには、一切、天候の異議雑評はやめにいたせ。ただ船立ちのしたくを急げよ」
これらのことはすべて「梅松論」にある記述である。大勢の言をいれず、ただ一人の老船頭の申し立てを採り上げられたのは、将軍の御真意、どのへんにあったものかと、人々不審にたえなかったといっている。