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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
「…………」
「千早の戦いなどを、事大に、言い囃されるなどは、正成にとり、面映ゆいことでしかありませぬ。あの善戦をなしえたのは、時の御稜威、また時の人心が支えたもの。――何条、正成一個のとぼしい智略や力などでありましょうや」
「おう、それほどな謙虚を持つなら、なぜふたたび、御稜威を負って、千早の勇猛心を、さらに振ッてみせんとはしないのか」
「いや、もはや人心は、残念ながら、数年前のものではありません」
「変ったと申すのか」
「申すは憚りながら、建武の御新政に、望みを失い、結局、武家は武家の棟梁を立てて栄えるに如かずと、ここ大きく狡く変ってまいりました。それが、尊氏をして、わずか二た月のまに、あのような挽回をさせたものにございましょう。されば、何が怖ろしいといって、そうした衆の志向の潮ほど恐いものはなく、それには勝つ術もなしと存じた次第にござりまする」
「ただそれだけで、戦う気も萎えたのか」
「いや、事実も証明しています。このたび発向にあたり、河内、和泉の領下一帯へ、出馬の令を触れ廻しましたが、思いのほか、武士どもは寄ってまいりません。これを千早金剛の頃にくらべれば、こうも人心が変ったかと、疑われるばかりです」