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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
「ちと迅いぞ。迅いッ、迅い!」
と突如、艫の舵手や帆綱番の上へどなった。
櫓櫂だけの兵船も多いが、身うごきの重い大船はみな帆力を借りていた。とかく船列は一致しない。何しろ、お座船からの命令一下では、ただちに敵前上陸へ移る将士をどれも満載している。勢いどの船といえ、先陣を気負ッていた。
「――賢俊御坊」
と、尊氏はまた、いつもそばにおいている陣中僧の日野賢俊へ訊ねていた。
「たしか、会下山の後ろ側には、旧い古道が一トすじ通っていたと思うが?」
「さよう。その古道をへだてて夢野、ひよどり越えの山中へ続いています」
「すると前面の西国街道からも、背後の古道からも、周囲はたやすく登りうるわけ。つまり二つの街道を扼して立つ孤立の丘と言い得るな」
「されば、彼処に立てば、十方、望みえぬ所はなく、敵にとっては、絶好な陣場です」
「そう思われるが、ではなぜ、そこに義貞が床几をおかず、楠木勢がおるのであろう? 御坊はあの陣容を見て、そこをどう思うな」
「や。会下山にある敵は、楠木でしょうか」
「河内守正成にちがいない。なぜなれば旗数が少なすぎる。それに正成以外には、小勢であんな地形に拠って、脚下にせまる大軍を、毅然と、待ちすましうるほどな将はおるまい」