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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

頭上の敵は嫌い、高地から低地へと、戦い戦い、長田村のほうへ降りて行ったものだった。――ときに陽はもう中天にあって、地熱はおもてを焦き、汗は塩になって、どの顔も眼ばかりがらんとしていた。血、泥、草ぼこり、およそ傷を持たぬ人も馬もなかった。

けれどまだ意気は高い。決して全能を消耗しきってはいない。正成の隊と一つになるまではである。正季にあってはそれが当面の作戦なのだ。そして究極には、兄と一つに死の座をえらぶことだった。

「兄はどうしたか?」

低地へ入ると、蓮池の水は、もう遠望もきかなくなった。しかしここは長田村、距離はさっきよりずんと近くなっているはずである。――兄上っ、と呼んでみたい。しきりにそんな衝動がこみあげていた。はや御最期か。虫の知らせか。と疑いたくなる。気づいてみると、天地はこのとき、奇妙なほどしいんとしていた。わすれていた蝉の声だけがわあんと耳に甦っている。

刈藻川の上流だろう。水を見つけた炎の兵は、われがちに駈け寄って流れを吸う、汗を拭く、また血を洗う。

「五郎。この間に」

と、正季は、天見ノ五郎へ、

「兄上の手勢はどのへんにあるか。またいま、敵の形はどうか。