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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
「もうそこです」
「そことは」
「会下山」
正季、正成のあいだに、きれぎれ、そんな声も流れた。そして正成の馬は、遅々として、この頃から進まなかった。馬上の人にも馬にも矢やら刀キズの血が生々しい。しかしそれだけのせいでもない。――殿軍にのこった甥の弥四郎正氏と十幾人の者は、ついに一人もあとから追ッついては来ないのだった。
弥四郎はこの時に戦死した。
そのことは、足利方の内にあった播磨の人、広峰昌俊が後日の“申状”の中に見え、それによれば、昌俊は、敵の楠木弥四郎とさんざんに斬りむすび、わがかぶッていた兜の吹き返しを左右二遍まで切られるほどな苦闘だったが、ついにこれを討ち取ったものとある。
ここではないが。
次のこともまた、この日の合戦のほかではありえない。
安芸の人、石井七郎末忠なる者が、正成の麾下にあって戦死していた。けれど、この石井末忠は楠木一族でもなし正成直属の武士でもなかった。菊池武吉などと共に新田の手から配されていた客将だった者である。つまり軍監の一将だ。だからいやなら観望しているも自由であり、義貞と共に退いても人に笑われはしない。だのにすすんでこの日、菊水旗の下につき、殉死的な戦死をとげたことだった。