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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

言い終らぬうちであった。堂のうしろでふいに、すさまじい人声がし、あきらかに敵と察しられる怒濤が屋を揺すっていた。

すでに部落内へも、水の浸み入るように、足利方の武者が潜入して来ていたにちがいない。

チラと――

敵の顔が、堂のすぐそばにみえた。で、裏手の崖に伏して見張っていた“落ちのび組”の和泉ノ助康、安間了現、八木ノ入道法達らは、

「すわ、来ているッ」

「敵だッ、敵が」

と、堂内の人々へ急を告げ、同時に、附近いったい屈まっていた敵人もまた、

「それっ」

と、すべて姿をあらわし、一せいに寺門や垣を蹴やぶッて、内へ突入しかけたものだった。

これを見ては、「ここにいるな、はやく落ちよ」と正成に叱られて堂外へ出ていた面々も、やわかとなって、この一宇の屋根をうしろに立ち退く気にはなれなかった。今生これきりの感を声にふりしぼって、

「おやかたさまっ」

「龍泉どの」

「ご一同、ご一同ッ」

と、堂内へ呼びかけながら、急に敵を滅茶苦茶に薙ぎはじめた。斬る、突く、そんな尋常一様なぶつかり方ではない。無数な小旋風が人間を吹き転がして、堂のぐるりを駈けめぐり、そして堂内の人々がしずかに果す自決の一瞬を必死に守りぬいていたのであった。