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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

で、そのへんのお指図を仰ぎたいと重ねていうと、尊氏は事もなげに笑い捨てた。

「たまたま、わしの室へ舞い込んだ小鳥のようなものだ。逃げたいなら元の野へ放してやれ。居たいなら幾日でもここへおいてやれ。ま、遊ばせておけばよい」

ゆるい、しかし大きな跫音は、もう本堂のほうへ通う暗い廊を踏んで遠退いていた。例の勤行の時間なのである。まだ夜のような冬の晨だが、彼はここに屏居いらい、朝々のそれを欠かしたことはない。

みずから壇の燈明をとぼし、香を拈じ、経文一巻をよみあげる。そのあとも、氷のような床の冷えもわすれきって禅那の黙想をつづけるのだった。この修行は彼としてはすでに久しいもので、いま始まったことでもない。師の疎石夢窓国師の許へは、在京中にも折あるごとに参じていたし、その師を都へ迎えたのも彼であった。また、後醍醐との禅縁をむすぶにいたらしめた蔭にも彼のすすめがあった。

ただにそればかりでなく、後醍醐と尊氏とのあいだには、疏通微妙な間に、禅の眼があった。どっちも、禅の人である。その観見をとおして互いの人間を量りあっているところがなくもない。禅は何らの扮飾も見ない。