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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(三)酒屋火事(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,725 字 · 298 頁

青空文庫

銭形平次捕物控

一

一

元飯田橋の丁子風呂の女殺しは、物馴れた役人、手先もたった一目で胸を悪くしました。これほど残酷で、これほど巧妙で、これほど凄い殺人は滅多にあるものではありません。

少し順序を立てて話しましょう。

滅法暑かった年のことです。八朔から急に涼しくなりましたが、それでも日中は汗ばむ日が多いくらい、町の銭湯なども昼湯の客などは滅多にありません。わけても女湯はガラ空きで未刻(午後二時)から申刻(四時)までに入る客というのは、大抵決った顔触れと言ってもいいくらいでした。

旗本のお妾のお才が出て、町内の金棒引――家主の佐兵衛の女房で、若くて少しは綺麗なのが自慢の――お六が入ったのはちょうど未刻半(午後三時)、番台に誰も居なかったので、

「ちょいと、今日は。誰も居ないのかえ、気楽ねえ」

そんな事を言いながら、着物を脱いで、少し乾いた流しを爪先歩きに石榴口から静かに入りました。

そこまでは無事でしたが、間もなく、

「あッ、た、大変ッ」

お六は鉄砲玉のように石榴口から飛出すと、流しに滑って物の見事に仰け反りました。

「どうなすったんです、御新造さん」

番台へ登ろうとしていた丁子風呂のお神さんと、釜前に居た三助の丑松は、両方から飛んで来てお六を抱き起しました。