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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(三)酒屋火事(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,725 字 · 298 頁

青空文庫

三

「お町さんと、どちらが先へ外へ出たんだ?」

「よくはわかりませんが、私の方が先だったようで。――なにしろ、火の中を泳ぐようにして、表口から飛出しましたんで、お嬢さんをおつれする隙もありませんでした。ヘエ――」

お町を救わなかったのが、恐らく千載の恨事だったのでしょう。そう言ううちにも、チラリチラリと周助の満悦の顔を見やります。

女房のお久は二階から飛降りて足を挫いたのを、百万遍もくり返すばかり。あとは家と店の品を焼いた口惜しさが一杯で、何を訊いても、一向に埒はあきません。

平次は早々に引揚げました。

三

「番頭さんじゃないか」

「ヘエ、これは、銭形の親分さん。御苦労様で――」

五十五六、すっかり禿げ上がった番頭の伊助は、平次に小手招かれるまま、路地の奥へ入って来ました。

「三村屋さんも、とんだ事だったね」

「有難う存じます。――漸く年の瀬を越したばかり、お嬢さんも厄が過ぎて、今年こそお聟さんが来るというところを、――本当に災難でございました。これで、何もかも滅茶滅茶でございます」

伊助は朝寒とは別に身を顫わせました。狐憑きから落ちた狐のような顔が、妙に悪賢さを思わせます。