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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(三)酒屋火事(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,725 字 · 298 頁

青空文庫

四

そう聴くと、平次も二の句が継げません。五十五六まで小店に勤めて、まだ独身らしい老番頭が、いつの間にやら世を呪い自分を嘲って、悪魔的な捨鉢な気持になって行くのでしょう。

「お前さんは独り者かい」

「ヘエ。二十五六年前、今のお神さんが若かった頃は、私も聟八人のうちの一人でございましたよ。――ちょうど、今の文治のようなもので、ヘエ」

狐のような顔が歪んで、泣き出したいような表情になるのを、伊助は自分の掌で、よく禿げた頭の上から、ツルリと撫で下げました。

四

「親分、――拾った奴がありますぜ」

「何だ。八」

「先刻の火付け道具」

八五郎は平次の耳に口を寄せました。

「誰だい」

「仲吉で」

「何だと」

「火事気違いの仲吉ですよ。三河町の細工物屋の息子、親父の市五郎は、この家のお神さんの兄貴ですぜ」

「知ってる。それからどうした」

「脂松に油綿を縛ったのを、炭俵の下から拾い上げると、しばらく見ていましたが、そっと人に隠して、焚火の中へ投り込みましたよ」

「人に隠して――かい」

「後ろ向きになって、焚火にあたるような恰好をして投り込んだんだから、間違いはありません」

ガラッ八は火事場の焼跡近く、見舞人達のために焚いた火のあたりを指しました。