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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(二)八人芸の女

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(二)八人芸の女(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,562 字 · 291 頁

青空文庫

「ところで、何刻でしょう親分」

「先刻戌刻(八時)が鳴りましたよ」

「それじゃ御免を蒙って、お薬を頂くとしようか。床へ入ってから楽な方がいい」

「どうぞ」

隠居の喜平は少しは茶のたしなみもある手さばきで、湯呑へ微温湯を一杯汲むと、南蛮の秘薬という粉薬を一と口に含みました。

「ひどく苦い――舌がピリピリするが、これで効くんでしょう」

そう言いながら、生温を湯呑一杯飲みほしてしまいました。

「それでは、御隠居さん」

話の潮時と見て、平次は立上がりました。

「とんだお引止めしました。儀八のことは、くれぐれも内緒に願いますよ」

「承知いたしました。では」

立ちかけた平次は、思わず坐り直したのです。

「ウーム」

「どうかしましたか、御隠居」

見る見る喜平の顔は鉛色に変って、額からはタラタラと油汗が滲み出します。

「苦しいッ」

がばと畳に崩折れると、唇を噛んで、滅茶滅茶に胸をかき毟りましたが、

「あッ」

クワッと吐いたのは、恐ろしい生血です。

平次もあまりの事に仰天しました。後ろから喜平の背を押えて、

「大変ッ、早く、早く」

そう言うのが精々だったのです。

浜田屋は上を下への騒動でした。