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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(二)八人芸の女

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(二)八人芸の女(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 144,562 字 · 291 頁

青空文庫

お通母子は、柳原を真っ直ぐに、薬研堀へ出て、石垣の窪みへ繋いだ不景気な釣舟へ下りて行くのです。

「皆吉か」

「父上」

侍言葉がまず異様に響きます。

「母上は」

「お伴れ申しました」

「気をつけて舟へ乗るがよい」

二人は舟の中へ入ると、先から居る父親と何やらヒソヒソと話しております。

「姉上は」

と皆吉。

「後の始末をしている。もう来る頃だ」

そのうちに火燧石を切る鎌の音がして、硫黄がプーンと匂うと、提灯に灯が入りました。

「…………」

ガラッ八は危うく頓狂な声を張り上げるところでした。舟の中にいるのは、紛れもなく浪人森右門の五十がらみの憎体な顔だったのです。

やがて両国河岸の方から急ぎ足の音がして、石垣の上にピタリと止ったものがあります。

「お島か」

「ハイ」

「大急ぎで乗れ。後を跟けられるような気がしてならぬ。幸い風も大したことはないようだ、夜のうちに羽田まで伸して、明日は精一杯駆けて程ヶ谷泊りだ」

と森右門。

「父上様――、母上様も御聴き下さいまし。私はこれにてお暇を頂きます」

「何、何を言う、お島」

「親子と申しても、私は御縁が薄く、父上様御慈愛の下に物心もつかぬ頃育ったとは承りましたが、もともと伯父姪の間、母上様、皆吉などともその通り」