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みみずのたわこと

みみずのたはこと

徳冨 健次郎

線上閱讀徳冨 健次郎《みみずのたはこと(みみずのたわこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 265,437 字 · 530 頁

青空文庫

上らぬとなるとます/\意地になって、片手は錨、片手は井筒の縁をつかみ、井の上に伸しかゝって不可見水底の柄杓と闘って居ると、

「郵便が参りました」

と云って、女中が一枚のはがきを持て来た。彼は舌打して錨を引上げ、其はがきを受取った。裏をかえすと黒枠。誰かと思えば、綱島梁川君の訃であった。

彼は其はがきを持ったまゝ、井戸傍を去って母屋の縁に腰かけた。

*

程明道の句に「道通天地有形外」と云うのがある。梁川君の様な有象から無象に通う其「道」を不断に歩いて居る人は、過去現在未来と三生を貫通して常住して居るので、死は単に此生態から彼生態に移ったと云うに過ぎぬ。斯く思うものゝ、死は矢張哀しい而して恐ろしい事実である。

彼は梁川君と此生に於て唯一回相見た。其は此春の四月十六日であった。梁川君の名は久しく耳にして居た。其「見神の実験」及び病間録に収められた他の諸名篇を、彼は雑誌新人の紙上に愛読し、教えらるゝことが多かった。木下尚江君がある日粕谷に遊びに来た時、梁川君の事を話し、「一度逢って御覧なさい、あの病体に恐入った元気」と云うた。丁度四月十六日には、救世軍のブース大将歓迎会が東京座に開かるゝ筈で、彼も案内をうけて居たので、出京のついでに梁川君を訪うことにしたのであった。