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みみずのたわこと

みみずのたはこと

徳冨 健次郎

線上閱讀徳冨 健次郎《みみずのたはこと(みみずのたわこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 265,437 字 · 530 頁

青空文庫

角谷の踪跡は此処ではたと絶えた。其れから一週間彼は何処を如何迷うて歩いたか、一切分からぬ。

十八日の夜八時過ぎ、神戸発新橋行の急行列車が、角谷の主人の居に近い大森で一人の男子を轢いた。足は切れ、顔もメチャ/\になって居たが、濃い眉で角谷と分かった。店を出る時白がすりを着て出たが、死骸は紺飛白を着て居た。百二十円の貯金全部を引出した角谷の蟇口には、唯一銭五厘しか残って居なかった。死骸は護謨草履を穿いて居た。護謨草履が欲しい/\と角谷は云って居たのであった。

彼は久しく死ぬ/\と云って居た。死ぬ/\と云って死ぬ者はないものだ、貯金なぞ精出して死ぬ者があるか、と他の店員が笑うと、死ぬ前には奇麗に使って仕舞うと角谷は戯談の様に云って居た。角谷は手が器用で、書籍の箱造り荷拵えなどがうまかった。職人になればよかった、と自身もしばしばこぼして居た。

角谷は十九であった。店は耶蘇教主義であるが、角谷は夜毎の家庭祈祷会などに出るのを厭がって居た。彼の本箱には、梅暦や日本訳のマウパッサン短篇集が入って居た。

謎は自ずから解ける。

ヱデキンドが「春の目ざめ」のモリッツを想わずに居られぬ。