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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

「いいえ、このまま、お髪だけかいて、参ります」

「そりゃいかん――」

「そのままでよい、早く致せ。うるさくていけぬ」

「はい――済みました。着物も、このままで参ります」

深雪は、鏡を片づけて、膝を二人へ向けて

「小父さま、長々と、御世話になりました。御恩返しも致しませずに――」

「今、お茶を一つ、いれるからの」

「いいえ」

深雪は、首を振って

「兄を、この上とも、よろしくお願い申します。これで、お別れになるかも知れませぬが、お身体を、おいとい遊ばして――兄様、それでは――行って、参ります」

「うむ」

立とうとする深雪が、俯向いたまま、畳へ、涙を落した。それと、同時に、南玉が

「いけねえ」

と、泣声で叫んで

「角まで、送らあ。提灯をさがしますから、一寸」

立ちかけると

「これにある」

と、小太郎が、柱にぶら下げてあった提灯を取った。

「では、兄様」

「何を泣くっ」

「はい」

深雪は、立上った。南玉は、提灯をつけた。暗い土間で、もう一度、振向いて、出て行く妹の後姿を、じっと、見ていた小太郎は、二人の足音が消えると共に、脣を噛んで、涙を落した。そして、立上ると、土間へ、跣足のままで飛び下りて、外へ顔を出した。