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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁
団十郎に次いでは、やはり鶴蔵の下女が巧かった。善六が着物を剥がれて追い出される時、ちょっと別れのおかしみがあって、「善六さん、さらばでござんす。」と唄になり、前垂で顔をおさえながら奥へはいる姿、これもわたしの眼に残っている。次ぎには鶴松の多三郎がよかった。
この時もわたしは父に連れられて団十郎の部屋へ行った。それは一番目の「文覚」と中幕の「鳥目の上使」との幕間で、団十郎は中幕に後室千寿の役を勤めているので、その顔を作りながら父と話し出した。文覚と善六とのあいだに女形をするのだから少し困る、などと彼は笑っていた。わたしは黙って彼の化粧法をながめていると、それは予想外に簡単なものであった。女形といっても後室の年増役で、特別に美しく作る必要もないのであろうが、彼はその顔を薄白く塗って、両手で叩くように二、三度撫でまわしていたかと思うと、今度は指の先に鉄漿をつけて前歯をちょいちょいと染めた。それからくちびるを少し塗ったかと思うと、彼はもう鏡台から顔をそむけて、すぐに衣装を呼んでくれと言った。わたしはその余りに素捷いのに驚かされながら、正面に向き直った彼の顔を更にじっと見つめると、彼の顔は一向に女らしく見えなかった。