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めいじげきだん ランプのもとにて

明治劇談 ランプの下にて

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁

青空文庫

その入場料は、桟敷一間に付き四円七十銭、高土間三円五十銭、平土間二円八十銭であった。

わたしの見物した日には、菊五郎は病気だというので、その持役のうちで河童の吉蔵だけを勤め、藤井紋太夫と浄瑠璃の喜撰法師は家橘が代っていた。団十郎の光圀はもちろん適任者で、世間一般からも好評であったが、その光圀よりも、わたしは浄瑠璃における文屋康秀にひどく敬服させられた。例の“富士や浅間”のくだりなど、わたしは実に恍惚として眺めていた。今日でも彼以上に達者に踊り抜く俳優はたしかにある。しかも彼のごとく悠揚迫らずして、おのずから軽妙洒脱の趣を具えている俳優は、殆んど見当たらないように思われる。たってその後継者を求むれば、やはりかの幸四郎であろうか。菊五郎の河童の吉蔵ももちろん評判がよかった。最も不評であったのは福助の魚屋久五郎で、初めから無理な役を引受けたのであるから気の毒であったが、魚屋よりも八百屋に近いという評判であった。何分にもあの丸く肥った体とねちねちした上方の調子とで、江戸っ子の魚屋を勤めようというのであるから、どうにも仕様がない。わたしは何だかはらはらするような心持でその魚屋を眺めていたのを、今でもありありと記憶している。