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めいじげきだん ランプのもとにて

明治劇談 ランプの下にて

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁

青空文庫

」と言うと、もう一人の娘がわたしの方をじろじろ見かえりながら、「でも、あんな役者、知らないわ。きっとペエペエよ。」と囁いていた。役者は好いが、ペエペエはひどい。わたしはすこしく憤慨して、それを榎本君に訴えると、「いや、ペエペエならまだ好い。この間、僕が通ったら、ありゃあ出方かしらと言っていた。あいつらはどうも口が悪くていけないよ。」と、榎本君は笑っていた。

一種軽蔑の眼を以て、出方やペエペエの出入りを見送っていた娘さんたちは、今頃どうしているか知らないが、一方の出方はもうこの世にはいない。それでも榎本君は晩年歌舞伎座の立作者となって、かの「名工柿右衛門」や、「経島娘生贄」などを書いている。一方のペエペエはまだ無事に生き残っているが、どうもこの上に発展しそうもない。所詮はペエペエで終りそうである。あの娘さんたちは慧眼であったと言わなければならない。

榎本君はその年の秋からひとまず歌舞伎座を退いて、『やまと新聞』に入社することになったので、築地の家を去って他に転宿した。これまでは桜痴居士が多忙のときには、榎本君の部屋で遊んで帰ったのであるが、その榎本君がここにいなくなると、わたしはなんだか止まり木を失ったようにも感じた。