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めいじげきだん ランプのもとにて

明治劇談 ランプの下にて

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁

青空文庫

中幕の「勧進帳」が終って後に、わたしは父に連れられて楽屋へ行った。その途中の甚だ乱雑なのに驚かされたが、低い梯子段のあがり口で、かの守田勘弥に出逢うと、きょうもやはり丁寧に挨拶していた。

団十郎の部屋はあまり広くなかったように記憶している。中には四、五人の男が控えていた。その人たちが席を譲って、わたしたちを通してくれると、こっちへ向き直ったのが部屋の主人の団十郎で、舞台で見たと同じように眼だまの大きい、色の真っ白な人で、大きい鏡の前に大きい蒲団をしいて坐っていたが、父にむかって「今日は好うこそ。」と丁寧に挨拶した。それから父といろいろの話をはじめたが、舞台で大きい声を出すにも似合わず、なんだか低い声で、おまけに少し舌が廻らないような口の利き方で、聴いていても甚だ面白くないような話しぶりであった。

やがて傍にいた男が茶と菓子とを出すと、団十郎はその男にむかって、「坊ちゃんにはあっちの菓子を……。」という。男は心得てすぐに起ったが、半紙の上に大きなカステラを幾片か乗せて、わたしの前へ持って来ると、団十郎はわたしを見かえって、「おあがんなさい。」と、顎を突き出して言った。