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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁
のうちに、襟巻をした町人らしい人物が炬燵を前にして、春狂言の番附を見ている挿画がある。その画面をここで詳しく説明することは出来ないが、歳の暮に春芝居の番附をうけ取って、今度の狂言はどうであろうかとか、今度の役割はどうであろうかとか、胸の中にいろいろの想像を描きながら、来る春を楽しく待つという、のびやかな気分が、いかにも好く現われていたように記憶している。勿論、文化文政度の江戸時代の人間と、今日の人間とは一緒になるはずもないが、せめて芝居の番附にむかった時などは、やはり昔のような一種の落着いた暢やかな気分でありたいと思う。それには必ずしも昔風に限ったこともないが、何とかもう少し芸術的の番附を工夫してもらいたいと思うのである。狂言の名題と役割と、入場料と開場時間と、食堂の鮨や弁当の値段さえ判ればそれで好いというような、今日の安っぽいプログラム式の番附では、単に用が足りるというだけのことで、芝居らしい気分も、暢やかな気分もとうてい浮かみ出して来そうもない。
それに連れて、今日の観客は、何だかざわざわして一向に落着きのない、しんみりと芝居を味わおうという心持のない、むやみにテンポの早い芝居をよろこんで、幕が下りたら廊下へかけ出して、早く煙草を喫おうとか、食堂へ飛び込んで何か食おうとか、待ち構えているようなふうに