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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁
彼は父母の旨を奉じて進んで来た。しかるに幸か不幸か、彼の健康はいかにしても彼の嗜好に反する学術を忍んで学ぶほどの弾力を有していない。彼は二年間に赤十字社に三度入院した。医師に勧められて三度湯治に行った。そしてこの間彼の精神の苦痛は身体の病苦と譲らなかったのはすなわち彼自身その不健康なるだけにいよいよ将来の目的を画家たるに決せんと悶いたからである。
それでこのごろは彼も煩悶の時を脱して決心の境に入り着々その方に向かって進んで来たが未だ故郷の父母にはこの決心を秘しているのである。彼がややもすると不安の色を顔に示すはこの故である。
『ナニ画のためになら倒れてやむだけの覚悟はもう決めていますから平気です、』と彼は言いだしてさびしく笑った。
『君のことだからそうだろう。』
『そうですとも、ほんとにね兄さん、昨日も日が西に傾いて窓から射しこむと机の上に長い影を曳いて、それをぼんやり見ていると何だか哀れぽい物悲しい心持ちがして来ましたが、ふと画の事を考えて、そうだ今だとすぐ画板を引っ掛けて飛び出ました。画のためとなら小生はいつでも気が勇み立ちます、』といって彼はその蒼白い顔に得意の微笑を浮かべた。