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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

顕家は感泣していた。かぞえ年の十八はまだ年少な香をもっている。感情の琴線は純で一途だった。情に極まると子供みたいな咽びを洩らす。

父親房は、やがて親王にお添いして、准后の院へ伺候して行った。――が、顕家はなお御前にのこって、宵のころまで御酒を賜わり、その夜は行宮の廊ノ床に、鎧も解かず、宿直寝していた。ここのおよろこびもただならない。しかし、当夜も麓は合戦の火の手やら地獄を思わす人間のおめきであった。

まだらな残雪に見える。十四日の月のこぼれだ。

顕家は綿のごとく疲れていたのにさてなかなか眠れなかった。――山風はつよく、麓では遠い兵馬の喧騒が海鳴りに似、夜じゅう、何か事ありげだった。トロとしかけては本能的にすぐ筋肉が目をさます。

それに吹きさらしな行宮の外廊は、氷に坐しているようだった。だが、これは彼が求めてしていた宿直だった。――宵に、親しく御酒をいただいたとき、たまたま後醍醐のおくちから、

「顕家、覚えておるか」

と、元弘元年の北山御遊のおはなしが出たのである。その平和な一日の楽しさ、尊さ。顕家にも忘れられない。

それで彼は北山殿でも花の終夜、君に宿直したことなども思い出して、あす知れぬ戦陣の身、これがお名残りになろうもしれずと、独り今夜をここに懐かしんでいたのであった。