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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

――二十八日合戦は、こうして加茂の一角で勝った。

これに満足する直義ではない。天まだ暗い翌暁からさらに攻勢を烈しくして、

「師泰、下り松を占れ」

と、号令していた。

高ノ師泰、首藤通経らが先陣していた。午ごろ、そこの敵も一蹴し去った。

すると、どこからとなく、

「――敵は大原から龍華越えして、北国街道へと、徐々に逃げ退いている」

と、聞えた。

義貞も、また行宮も、叡山をすてて、一時北陸へ避ける用意らしいという風聞なのである。

「それみろ。味方が苦しいときは敵もまた苦しいのだ。兵力の底はつき、叡山の兵糧も乏しくなったに相違ない」

と、直義は誇った。

が、その見解を、甘い見方として、

「いや、敵の偽計だ。おそらくは乱波の流布?」

と、いさめる声も多かった。石堂、荒川、仁木、畠山などの部将らだった。

こんな乱軍中の浮説が、いかに危なッかしいものであるかの実例には、つい十日前の闇夜合戦のあとでも、

「敵将の楠木正成と脇屋義助が昨夜討死した」

と、その首まで拾って来て立ち騒いだことなどある。もとよりそれは偽首だった。が、偽首と分ったあとの空々しい敗北感はいつまで後味わるく尾をひくものであった。