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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

「皮肉だの」

「なぜですか」

「その観世丸が生れたのは、四年前、あの千早籠城の中だった」

「ほんに、わたくしたち初め、草や木の根を喰べていた中でしたのに、ようひとりの赤子でも、乳も出ぬ母御の手に、無事に育ったものでございますなあ」

「そうだ」

思い立ったように。

「久子。あとで山支度を揃えておいてくれい」

「お出ましですか」

「法華経一巻、あと、奥書だにすれば写経が終る。それをたずさえて山上の金剛山寺におさめ、参籠をも遂げてまいりたい」

「では七夜も」

「いやほんの、ひと夜」

久子が去ったあと。写経の末に願意、年月、姓氏を書きいれた。そしてもう半年も前から精進していた他の数巻とあわせて経箱へおさめ、また自身、廊の端の掛樋へ行って、課業のすんだ硯の墨を洗っていた。

「や、ここにおいでなされましたか」

「爺(左近)か。何用」

「ただいま御門そとへ、えらく大勢まいりましてな」

「大勢」

「はい。住吉の打物屋鳶七と申すのが、お頼みうけていた武具繕いの職人どもをやっと都合つけて連れまいりましたとのことでござりますが」

「それなれば龍泉の屋敷へやれ。正季が頼みおいたものだろう」

「いや龍泉殿へまいったところ、正季さまがお留守とあって、こちらへ来たもののように申しまする」