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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

では、その頃の私をば、なお御記憶でございましたか」

「はははは」と、正成は一こう相手を脅かす語気でもなく――

「それは覚えておるよ。たしかあの夜はひどい暴風雨であった。そして、初めて御辺を見た所は、龍泉の正季が家の奥。……な、柳斎、いや右馬介どの」

「まことに」

と、介はもう、その物やわらかな相手のあばき方にたいして、逆ろう気にも言い逃げる心にもなれなかった。

「おそらくは早やお忘れとのみ思っていましたが……。これは怖ろしい。あのつかのまのことをなお御記憶とは……。いや御炯眼です。恐れ入りました」

「なんの、忘れては正成こそ相すまぬ。――あの夜、妹の卯木夫婦の者は、お辺に救われて河内を脱し、そして以後の幾十日も、住吉のお宅で厚いお世話になったと後に聞きました。――介どの。余りに古いことにはなるが、お礼を申す」

「これは!」

介は顔をあからめた。狼狽に似たものすら持って。

「私こそ、お詫び申さねばなりません。当時の泥を吐けば、あの折こそ、じつは全く隠密の目的で、ご領内に入り込んでいたものに相違ございませぬ」

「尊氏どののおいいつけでか」

「いや、介の一存にござりまする。