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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
正成もまた、あとの者を、犬の子ほども、気にとめていないふうだった。――そして大蔵は先に麓へ追いやり、蔦王だけを連れて歩いていたが、介が近づくのを、ふと待って。
「介どの。まずは真っすぐ筑紫へ帰る気か」
「は。ついに無能な使者と相なってしまいました。帰るしかございませぬ」
「気のどくだったな」
「残念に存じます」
「ぜひもない」
「が、まだ、あきらめ切れてまいりませぬ」
「思い出される」
「何事を?」
「あれは建武元年の秋、紅葉のさかり頃。石清水の行幸にしたがい、われらも、また足利殿も、供奉いたしたことがあった」
「男山の御祈願で」
「さよう。帝以下随身みな山上に二泊の折、足利殿には一夜不慮の刺客に襲われ、そのことで翌日、内裏の校書殿にて親しくお詫び申したことがある。……思えば、二人が心の端を語りあったのはただ一度、その校書殿の夜だけでしかない」
「…………」
「が、その折、尊氏どのもかなりお胸の底をみせ、正成も偽らぬ自分を、おこたえしておいた。おそらく、正成が終生の友ならぬことはあのとき覚られていたはずと思う。……されば、まもなく大塔ノ宮を禁獄しまいらすなどの悪策をもあえて押し進められたのではなかったか。