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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

卯木も観世丸と共に、家族のうちにいたが、久子だけは見えなかった。それを気にして、

「母上。始まりますよ。はやくいらっしゃいよ母上」

と、正行は何度も、自分で呼びに立ち、やがて、爺の左近が連れて来ると、父のそばをあけて、そこへ母を坐らせた。

母屋の縁だけでなく、書院の廊から下屋の方にも家臣の顔がいっぱいだった。水分の大家族はほとんど揃ッた観がある。龍泉の正季も家来をつれて書院廊の角に坐っていた。しかしなぜか正季の周囲には、この光景を愉しんでいる色がなかった。

散所囃子――

が早や賑やかに鳴り出している。主楽器は太鼓と鉦であった。それに笛やササラの音がからむ気だるい野趣をおびた民楽だが、遠くには、金剛や葛城の山波が横たわり、空には昼の月があった。いわばそれらが舞台をなし、いつかしら、ここの群集のうえには、一場の法楽の天国が、理窟なしに降りていた。

そのうちに、衆の笑い声が、風と花のように、どよめき合い、どの顔も、相好をくずし出した。散所芸人たちの野芝居は、野卑で、淫猥で、人間の皮を剥いて見せるように開けッぴろげな芸であったが、しかし少しも暗くはなかった。