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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

と、尊氏は襟もとに顔を埋めて、

「……いささか、わしも途方にくれる。さてどうしたものか」

と、つぶやいた。

「いやその儀なら」と、直義は初めからの覚悟のていで「――すべての悪名は私が着ます。いかなる難関にも身を以てあたる所存ではおりまする。がただ一つ、兄上の胸底には、いまなお、鑁阿寺の置文が、お忘れなくあるのかないのか、それだけが」

「気がかりか」

「気がかりです」

「はははは」尊氏は、初めて笑い出して。「見損うな。殿上の衣冠などは雛人形でも着る。また、すでに白骨となった者、生ける一門の族党、ましてそちまでを、裏切っていいものか。尊氏はそちたちが観ているよりは、ずんと欲望の深い悪党なのだ。わしが仕尽くす業はこんなことでは終るまい。頼朝公ですら、さしも死際はよくなかった。この尊氏もそれには似るかもしれん。……それでの、そろそろ後生を心がけたい。ここでしばらく仏門に入りたいのだ」

「えっ、仏門に?」

本気かと、直義は疑った。

だが、あいまい模糊な尊氏の顔はまた笑っていた。

「いや謹慎のためにだよ。近日中にわしはここの将軍邸を捨てて、寺へ移る。身はそのままな俗尊氏だがの」