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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

そして、暁早く。

尊氏はその本陣を、多々羅の低地へふかくすすめて、旗を伏せた。

直義も、師泰も、足利勢すべてこの日は、近々と敵前へ出て、後方の低い山々には、一兵も残していなかった。――要するに、総当りの体勢で――きょうを以ていちかばちの決戦の日と、期したのだった。

反対に。

菊池勢は自重しすぎた。

「なにほどかあらん」と思い。「敵は小勢」と初手にあまく観たのが案外だったので、その反作用からかたく堅陣をとってうごかなかった。加うるに、彼方の偽陣を見て、それも足利方後詰かと、誤算していた。

あかつき。――風はなく――けさは白い川靄さえ、たちのぼっていた。

その久原川を、ザブ、ザブ、ザブ、百余騎の影がいま南へ越えて行った。

足利方の千葉大隅守だった。

「敵の首将菊池武敏が、今朝は陣地がえして、多々羅のみなみ、津屋へ出ている」

と偵知したからである。

そこは、自陣ともっとも短距離な地点だ。――抜け駈けは軍紀の禁だが、みすみす、目のまえに敵の首将がいる! 大隅は後日のとがめを覚悟で単騎斬り込みの挙に出たものだった。

しかし、武敏の旗は、数千の兵馬で厚く守られている。