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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

昨夜、一族三百余人、熊山の自邸を焼きはらい、播磨ざかいの方へ、逃げ落ちて行ったものにござりまする」

こんな対話中の折だった。直義の陸手からも、福山城をたッた今、攻めつぶしたとの捷報を早打ちしてきた。

その勢いを駆ッて、陸上軍は、大安寺(岡山市の西)の松田一族を打ち、すすんで三石城(船坂峠)に突ッかけてゆく予定――と使いは口上を述べ終ると、すぐ馬をとばして帰った。

尊氏も、また、

「師直。ここも明朝は纜を解け」

と、命を出した。

海と陸とで、昼は呼びあい、夜は夜で、火光を揚げて、相互、比翼の軍となって進むこと。それが作戦第一の約束だった。

「申し上げまする。ちと、ご猶予を」

「安綱か。何だ」

「今朝、はやお船出のさいにはございますなれど」

「汀では、軍勢がみな、纜を解いて、わしを待っておる。はやく申せ」

「疾くより、言上いたしたものか、または時を待って、申し上ぐべきか、つい迷うておりましたが」

「ふム……? では何か、余り吉い事ではないのだな」

「いや、決して凶事ではございませぬ。じつは」

と、源太左衛門安綱は、少々思い余っていたらしいその一通を尊氏の手にささげた。