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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(三)酒屋火事(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,725 字 · 298 頁

青空文庫

「アッ」

黒木長者も危うく尻餅をつくところでした。土蔵の息抜きの上から、直径二尺ばかり物の見事に切り抜かれて、中の真ッ黒な穴が物凄まじく、朝の光を吸い込んでいたのです。

そのうちに、騒ぎを聞付けて、多勢の家の子郎党達が駆け付けました。

「泥棒ッ、泥棒ッ」

と言ったところで、そこにはもう曲者がまごまごしているわけはありません。

黒木長者を助けて、二三人の重立った番頭達が、土蔵の大戸前を開けて入ってみると、土蔵の奥に杉なりに積んだ千両箱のうち上の三つが、影も形もありません。

千両というと気安いようですが、その頃の性の良い一両小判は、今(昭和六年当時)の金の相場にして二十円弱、経済状態や通用価値を考えると、百円以上にも相当しますから、千両箱一つが今の人の気持からいえば十万円にも当るわけです。

その代り重さも相当で、一枚四匁の小判が千枚入ったとすると、千両の重さは正味四貫目、それに樫の頑丈な箱の目方を加えると、どうしても五貫近いものになります。安政年間に江戸城の御金蔵を破った、藤岡十郎と犬塚富蔵が、二人がかりで持出した千両箱がたった四つ、今から考えると馬鹿馬鹿しい話ですが、十両盗むと首を斬られた世の中ですから、これが徳川幕府始まって以来の大盗棒だったに相違ありません。