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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(三)酒屋火事

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(三)酒屋火事(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 146,725 字 · 298 頁

青空文庫

よく気を落着けて御覧よ、私の顔を見忘れるはずはないじゃないか」

「な、何だと?」

「なんて怖い顔をするんだろう。だけどさ、不断お前さんは優しいから、そう屹となったところも、とんだ立派よ。頼母しいったらないんだよ、ウフ」

女は身を翻すと、掛け香を三十もブラ下げたような妖しく、艶かしい香気を発散させて、八五郎の膝へ存分に身を投げかけるのでした。

「わッ、何をしやがるんだ。俺は女が嫌いだよ。ことにお前のようなのは、見ただけでも、虫唾が走る」

「何を言うのさ、この間は一緒になってくれって、お前さんの方から泣いて口説いたじゃないか」

「冗談も休み休み言えッ。それともお茶番の稽古なら、また日を改めてお願いしようじゃないか。馬鹿馬鹿しい」

しかしこの勝負は完全に八五郎の負けでした。どうしても一緒になると言う女を突き飛ばして、ろくに顔も洗わず、昨夜の泥の付いた袷を引掛けたまま飛出したのは、それから四半刻(三十分)ばかり後のことですが、八五郎は骨の髄まで女臭くなったような気がして、神田川へ飛込んで洗おうか――といった、途方もない衝動にかられながら、銭形平次の家へ、一目散に駆けて行ったのでした。