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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Read 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 335,908 characters · 669 screens
二道の火気空に向かって
すなわち、動物に形を変えた味方の軍兵が敵に誘われ、山上より谷間へ引き込まれ殺戮されたからでござる。しかるにようやく夜間となるや、今諸君が見られた通り、灌木や岩石に身を変じた敵方の軍兵を誘いにかけて捕虜に致したではござらぬか」
数馬はにわかに武者顫いしたが、
「して敵方の軍勢の中に、我らが尋ぬる父の仇、玄斎坊主之助はおりまするか?」
「いかにも其奴おり申す」五右衛門は云って手を上げて谷の一所を指差したが、「氷張り詰めた河の岸の右手が確かに敵の旗本。その旗本の兵の中に、頭巾をかむり袈裟を掛け飛礫の袋を腰に下げた大きな坊主が立ってござるが、それこそ坊主之助でござろうよ」
聞いて数馬は逸り立った。
太刀の柄を手で抑え、崖を下って谷の底へ真一文字に飛び込もうとする。
二道の火気空に向かって
驚いて止めたのは五右衛門である。
「お待ちなされい! どこへ参られる! 仇一人ならばともかくも、谷には坊主之助の味方の者、満ち満ちておるではござらぬか! 機を看てせざれば敗れを取る。いましばらくはお待ちなされい!」
いかさま、数馬も考えて見れば、見す見す死地へ入るようなもの。敗れを取るのは知れているので、気負う精神を押し沈め、谷を睨んで突っ立った。