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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Read 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 335,908 characters · 669 screens
水文飲咒の術
まず若殿が挨拶をする。
「なんのなんのその斟酌、決してご遠慮には及び申さぬ。ごらんの通りの隠れ住居、来者拒まず去者追わず、縁あって見参致したからはすなわちお互いは知己でござる。まして高遠の大領主伊那殿の総領君でござるからは、ご領内に住む我らにとり縁なき衆生とは申されぬ――聞けば城内の大奥に物の怪出でて騒がす由、それは確かでございましょうな?」
「確かも確か、物の怪は、今も毎晩出で申す」
水文飲咒の術
「物の怪の出づるその前後に不思議なことでもござるかな?」
「家鳴り震動いたします」
「震動の来る方角は?」
「奥庭の隅の木立の間」
「鳴動の通る道筋は?」
「木立の間からまず起こり、築山の裾を地響きさせ、泉水の岸で一旦止む……」
「すなわち水文飲咒の術――恐らくきっとその頃から城中の人々一人残らず睡気を感ずるでございましょうな?」
「仰せの通りでございます」
「やがて鳴動がまた起こる」
「長い廊下を通ります」
「室の向こうの杉戸の蔭で再び鳴動が止みましょうな?」
「仰せの通りでございます」
「忽ち杉戸がスラリと開く」
「しかし何者の姿もない。ただ開くばかりでございます」
「いかにもただそれは開くばかりだ――そして実際そこからは何者もはいって来ないのだ……しかし杉戸が開いた時、人々はきっとその方角へ全身の注意を注ぐであろう。