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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Read 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 335,908 characters · 669 screens
第二の機会
第二の機会
「おい」
「どうした?」
「驚いたな」
「何をそんなに驚いたんだ」
「何をってお前、驚くではないか」
「俺にはちっとも解らない」
「……いや全く仰天した。京都のお公卿さまだと云うじゃないか」
「へえ、何んだい。はっきり云いなよ」
「何さ、例の角太郎さんがさ」
「ああそうか、あの人のことか」
「これには全く驚いた」
「そう云えば俺も驚いた」
「立派な人物とは思ったが、しかしまさかお公卿様だとは、俺ら夢にも知らなかった」
「そうとも、俺らも知らなかった」
「さてお公卿様だと聞いて見ると、なるほどそういうところもある」
「どうも実に威厳があるからな」
「黙っていても威厳がある」
「物を云っても威厳がある」
「それでいてちっとも高ぶらない」
「高ぶるどころか、謙遜なものだ」
「実にどうも奥床しい」
「自然と頭が下がるじゃないか」
「いや全く頭が下がる」
「犬馬の労を尽くしたいものだ」
「俺も実際そう思っている」
「噂をすれば影とやらだ。おいおいあの方がいらっしゃったぞ」
ここは黒姫の水晶山で、昼の休みを人足どもが、あっちに一塊り、こっちに一塊り、世間話に余念なかったが、その話の種と云えば、仮りに角太郎と名を呼ばれた、飛鳥井右京次郎であった。