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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Read 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 335,908 characters · 669 screens
今日も春らしく曇ってはいたが、時々雲切れがして陽が射してどんよりとして暖い。
弓掛の部落を遮っている蛇骨峠を一つ越すと、天蓋山の鉱山で、昼夜分かたず噴煙が硫気を含んで立ち昇り、熔鉱炉の煮える音、鉱石を砕く鎚の音、火薬を仕掛ける大爆音が絶える間もなく響いている。
今、幾群かの坑夫達が、元気よく列を作りながら、坑道の方へ進んでいた。
「おお、おお見るがいい、丑松めがあんな所で地面を嗅いでいるわ」
一人の坑夫はこう云うと山の斜面を指差した。そこには傴僂の老人が、地面を蜘蛛のように這いながら何か独言を云っている。髪は乱れて肩に懸かり陽に焼けた顔は眼ばかり白く、手足は枝のように痩せ枯れている。
坑夫の群は足を止め面白そうに挑戯い出した。
「丑松、丑松、匂うかな?」ガラガラ笑いながら訊くのであった。
丑松はヒョイと顔を上げて坑夫の群を眺めたが笑いもしない真面目の顔で「ウム」と一つ頷いた。その笑いもせぬ真面目の顔がかえってどうにも可笑しいのでまた坑夫達は吹き出した。
「ホホウ、やっぱり匂うかの? どんな匂いがするのじゃの?」
「黄金の匂いじゃ。黄金のな」益※(二の字点、1-2-22)丑松は真面目である。