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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

Read 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 335,908 characters · 669 screens

Aozora Bunko

よいよい過去は咎めまい。謹しむべきは今後の事じゃ。云うまでもなく神保の子息、市之丞などと申す者の事、思い出す事さえなりませぬぞ」

「え」――と、芳江はそれを聞くと、静かに体を立ち上がらせた。「それでは神保市之丞様を思うてはならぬと仰せられますか? 良人とも思う市之丞様を?」

「黙れ!」

と弾正は叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)した。

「良人とは何んじゃ! えい、白痴めが! そちにとっては市之丞がこの父よりも恋しいか! それとも父が大切か? まずそれから申して見よ!」

「どちらも大切にござります」芳江の答えは無邪気である。

「それはならぬ!」と弾正は、鷲のような一眼を輝かせた。

「いずれか一つ、はっきりと申せ!」

「あのそれではどうしても、……一つを申せとおっしゃりますか」

「ご用心なされい。芳江殿」――オースチン師は腕を組み、芳江の様子を見詰めながら云った。

「何も恐れることはない。ただ真っ直ぐに仰せられよ」

「一つを申せとおっしゃるなら……勿体のうござりますが、市之丞様こそ大切のお方……」

「出て失しょう!」

と、弾正太夫は、よろめきながら怒号した。

「か、勘当じゃ! 勘当じゃ! 子には背かれ、家臣には裏切られ、鉱山からは鉱石が出ぬ! 葡萄大谷ももう末じゃ! 出て失しょう! 出て失しょう! 悉く去れよ! 俺は一人じゃ