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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Read 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 335,908 characters · 669 screens
さあさあ者ども参るがよい」
義明はスックと立ち上がり、鳰鳥の繊手を取りながら、洞院左膳を始めとし腰元近習を引き従え、廊下伝いに鳰鳥の部屋へさざめきながら立ち去った。
後に残った甚五衛門は、杯盤狼藉たる座敷の中に一人愁然と坐ったまま、容易に動こうとはしなかった。
夜は次第に更けて行き、雨のようにすだく虫の声が、庭の草むらから聞こえて来る。木の葉が庭上へ落ちる音さえ聞き取られるほど静かになった。鳰鳥の部屋から時々聞こえる男や女の笑い声が、あたりの静けさを破るばかり。それさえ寂し気に絶え勝ちであった。
甚五衛門は立ち上がった。そして窃かに座敷を出て、廊下づたいに裏庭の宝物蔵の方へ忍んで行った。
宝蔵は館を少し離れた、庭の中央に建っている。四辺に灯火のないためか、秋の夜空にクッキリと黒く聳えて立って見える。
甚五衛門はひそやかに宝蔵の方へ忍び寄った。そして四辺を見廻わしてから、声をひそめて呼びかけた。
「源十、左馬也、どこにいるぞ!」
しかしどこからも返辞がない。甚五衛門は審かし気に、尚も宝蔵へ近寄ったが、
「源十、左馬也、どこにいるぞ! 大事ない、返事せい、甚五衛門じゃ」