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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(六)結納の行方

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(六)結納の行方 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 142,597 characters · 289 screens

Aozora Bunko

焼酎臭い四畳半に、金盥を一つ、美しいお駒が甲斐甲斐しく手拭を絞っては、左孝の額を冷しているのでした。

「あ、親分さん方」

入って来た平次とガラッ八と万七を見ると、お駒の顔色は動揺します。灯のせいだったかも知れません。

「お駒、立ってみな、――どこかへ血が付いているはずだ」

「…………」

平次の声は峻烈でした。お駒の顔は、紙のように蒼白くなります。

「お前には殺す気はなかった。白旗直八はお前を捕まえると、あの部屋に伴れ込み、刀まで抜いて脅かした。言うことを聞かぬと殺すとか何とか言ったろう。お前は思案に余って、言うことを聞くような顔をし、白旗直八が刀をそこへ置くといきなり取上げて刺したはずだ――証拠はたくさんある」

「親分さん」

「違っているとは言えまい。さア、番所へ来い――三輪の兄哥、聞いての通りだ。俺はこの女を番所へ伴れて行って、伴三郎と突き合せる。兄哥はすまねえが、ほんのしばらくここに居て、怪我人を見てやってくれないか」

平次は誰にも物を言わせませんでした。スックと立上がると、

「親分さん、待って下さい、それは、違う」

怪我人の左孝が重態の床から乗出すのにさえ目もくれず、お駒を引立てて、風のごとく部屋の外へ出ました。