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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
Read 蔦葛木曽棧 (つたかずらきそのかけはし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 335,908 characters · 669 screens
それもたけた窈窕たる高貴の姫君ではあるまいか。ぷんと匂う香料の香や「乳母や」と呼んで振り返ったその態度の優艶さには言葉に尽くせない品がある。
「市之丞様はまだお見えぬかや」
こう云った声の清らかさは、水の透明さにも例えようか。玲瓏として玉のようである。
「おっつけお見えになられましょう」
乳母と見えて一人の婦人が後につづいて現われたが、空を仰いで佇んだ。
その時谿谷の底の方へ半ば傾いた古木の蔭から、ふと進み出た人影がある。
静かに此方へ近寄って来る。
「市之丞様でござりますか?」※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)たけた声がすぐに訊いた。
「いかにも市之丞にござります……大変お待たせになりましたな」怨ずるがように云うのではあったが、それは少しも下品でない。すがすがしくさえ聞こえるのであった。
「いえいえ私こそ待ちましたのに」
情を含んで艶かしく女はこのように云うのであった。
「ホホウ、芳江様も待たれましたとな? それは家の内でござりましょう。それとは違いこの私は、闇の谷間を窃かに潜ぐり、木にも草にも心を置き、忍んで参る身でござります。そうしてようやくこの木蔭まで、辿り着いてもあなた様の美しいお姿の見えぬ時の心細さというものは、消え入りたいほどでござります」