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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 猿回し
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 猿回し (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,671 characters · 252 screens
「昨夜、灯は点いて居なかったのだな」
平次は静かに訊ねました。
「お嬢さんは、わざと灯を消して、お月様を眺めて居た様子でした」
「月の光の中では、遠くから一寸見た位では、なかなか、血は見えないものだが――」
平次は其処に気が付いて居たのです。
「でもお嬢様の身体は、欄干の下に捩れたように倒れて、背中には、匕首が突っ立って居りました」
お雪は吃と正面を切るのです。十三夜の良い月が、中天に近くなった頃でもあり、血が見えなくたって――と言った、反抗的な色がこの小娘の顔にありありと浮かぶのでした。
「成程、そんな事もあるだろうな」
このかけ合いは平次の負けです。
「もう、私はいいでしょうか」
自分の言い過ぎに気がついたらしく、娘は妙に尻ごみするのを、
「いや、もう少し訊き度いことがある、お嬢さんを怨んで居る者が無かったのかな、――例えば、追い回して居た男と言った」
平次は呼び止めて問いを改めます。
「そんな事は」
お雪は頑固に頭を振るのです。
「銭形の親分」
後ろから静かに声を掛けたのは、妾のお通でした。
「?」
振り返った平次へ、囁くように近々と、
「悪者は、私と間違えて、お照さんを刺したに違いありません。