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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 猿回し
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 猿回し (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,671 characters · 252 screens
【第三回】
一
これは当然疑いの外に置かねばなりません。
「銭形の親分、ちょいと」湯島の吉が、縁側のところから呼んで居ります。
「御新造が、お話をし度いことがあるそうですよ」
「俺に?」
「何でも、昨夜、お新に逢ったんだそうで」
「そいつは――」
平次が立上ると、お通が木戸口から庭へ――清麗な顔を出すのと一緒でした。
【第三回】
一
「銭形の親分さん、私は散々迷いましたが――、これは矢張り申し上げた方がよいように思います」
ザンバラ髪を後ろに撫でつけた、青い袷の女――お通はこう平次に言うのです。
三十二の厄前と聞きましたが、真昼の陽の烈しい光の中で見ると、この日陰の花のような女が、消えも入りそうな、朝顔の花の美しさを発揮することを、平次は感歎の心持で見ないわけには行きませんでした。
尼姿で石井依右衛門を夢中にさしたという女の、ザンバラ髪もまた一つの魅力で、この女から美しさを奪うために、伸びかけた髪の毛を切ったとしたら、曲者は大変な思惑違いしたことになるでしょう。
どんな風をしても浅ましさを思わせぬ女、毛を切っても、折目高の木綿の袷を着てもそのために反って、一きわの風情と魅力を添える女は、石井依右衛門ならずとも、中年過ぎの男を夢中にせずには措かなかったでしょう。