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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控 猿回し
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控 猿回し (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,671 characters · 252 screens
「あれは鎌鼬だな」
脂下りの煙管、日向ぼっこ、植木の世話と、ぬるい茶と、時々は縁側の柱にもたれて天文を案じながら、平次はこんな途方もないことを言うのです。
「江戸には鎌鼬は居ないというじゃありませんか」
「小梅の百姓地だ。鎌鼬だってモモンガァだって居るよ」
「鎌鼬が幇間の脇差を盗んで、人間の土手っ腹へ突っ立てるなんてぇ話は、何処にあるんです。え、親分」
「日本の国に――それも向島にあったんだから、俺はこの四、五日考えてばかり居るよ」
「下手人は矢張りあの甥の新吉じゃありませんか」
「いや違う、――新吉は伯父を殺そうとしたが、岩三郎を殺したのは、私じゃ無いと言ってるんだ。匕首と脇差を両手に持っちゃ人を殺せないよ」
「へェ?」
「不足らしい顔をするが、ちょいとやってみるがいい。匕首に気を取られて、一方の脇差は、思うように動きゃしないよ」
「へェ?」
「まだ堪能しないか、――脇差を岩三郎の胸へ突っ込んだ時、うんと血が出た筈だ」
「?」
「二階から逆落しに飛降りて来る人間へ、下から脇差しを突き上げたんだ。いやでも応でも全身に血を浴びるだろう」
「――」
「ところがあの騒ぎのあった時、庭に突っ立って居た新吉は、右手に匕首を持って、ぼんやりして居たというし、身体に血なんか少しも付いちゃいなかった筈だ。