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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控 猿回し

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控 猿回し (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,671 characters · 252 screens

Aozora Bunko

「行けないことはありませんが――」

八五郎は暫く狙い定めて居りましたが、やがて塀の土台と土台を置いた石を踏んで、案外楽に渡れるとみると、物をも言わずに、上手な軽業の太夫のように、スラスラと庭の端に沿って向うへ行くのです。

「うまいうまい其辺でいい、一寸立ち停ってくれ、お前の頭の上は、二階の欄干の丁度角のあたりだ」

「此辺ですか?」

「欄干に凭れた人間を、刃物で突き上げる工夫があるか」

「そいつは無理ですよ、親分、あっしの腕が二間以上も伸びなきゃ」

「其処に踏留っては居られるだろう」

「この通りで」

八五郎は両手を遊ばして、千番に一番の兼合いみたいな格好になりました。見ると板塀の裏側の、斜めになった支えの柱に足を絡んで居るので、身体は全く安定して居ります。

「槍なら突けるわけだな」

「お嬢さんを突いたのは匕首でした」

「――」

「でも親分、こんな危ない芸当をやりながら、欄干に凭れて居る人間を突殺せるのは、此家じゃ主人の弟の辰之助位のものですぜ、若旦那の幾太郎は青瓢箪で、危ない芸当が出来そうもなし、番頭の宇吉も算盤を持つのが精一杯の力仕事で、あとは女ばかり――」

「その辰之助と内儀とは、よっぽど仲が悪かったのか」