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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控 猿回し

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控 猿回し (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 125,671 characters · 252 screens

Aozora Bunko

「これだけ手を尽せば、黒旋風にどの様な手段があっても、妙月庵に潜り込む工夫はあるまいな」

伊藤治太夫はこの配備を眺めて、必勝のほくそ笑みを浮べます。

「お言葉ですが、油断はなりません、相手は何分にも黒旋風で、何をやり出すかわからず、妙月庵には修復の祠堂金千両が、明日請負の棟梁に渡す筈で用意してあります」

平次はこれ位の警戒では、まだ安心のならぬ様子でした。

「では拙者は一と回り様子を見て参る」

伊藤治太夫は大言を吐いた手前、もう一度警備を確かめる積りで出て行きました。

あとには平次と八五郎と、下っ引が二人、八方から来る情報を集めて、それぞれの指図をして居ります。

「御免よ――蕎麦を貰おうか」

月代の少し伸びた、長身の浪人者が、暖簾を分けてヌッと入って来ました。

「お相憎様、今晩は仕入れた種が皆んなになってしまいました、ツイ今しがた火を落したばかりで、――へェ」

亭主の中年男が平次に言い含められたのらしく、釜前から声を掛けました。

「何? 皆んなになったというのか、愛嬌の無いことだ――兎も角寒くて叶わない、近頃の無心だが、一杯蕎麦湯でも貰おうか」

浪人者は自分の家でも入るような悠揚さで平次の向うへ、どかりと腰を据えました。