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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(五)金の鯉
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(五)金の鯉 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,062 characters · 276 screens
「こいつは拾いものでしょう」
「フーム」
平次は炬燵から這い出しました。奥も入口も狭い狭い家、膝行寄って、いきなり障子を開けてみると、サッと路地を吹き抜く風が、まともに平次の額を叩きますが、入口の格子は銀鼠色に月光に開け放たれたまま、そこには心中の仕損ねどころか、季節物の恋猫の片割れも見えません。
「八、誰も居ねえぜ」
「そんなはずはないんだが――」
平次の後ろから八五郎、格子の外を月に透かして仰天しました。
「あッ、居ねえ」
「手前、永代から水死人の幽霊でも拾って来たんじゃあるまいね」
平次の声は少し怪談調子になりました。
「脅かしちゃいけねえ、確かに足は二本ずつありましたよ」
「怪物は足ぐらい融通して来るよ、――その辺の畳が濡れているかも知れねえ」
「親分」
八五郎も蒼くなりましたが、それより驚いたのは、お勝手元で働いていた若い女房のお静でした。思わずキャッと悲鳴をあげると、濡れた手も拭かずに茶の間へ飛込んで来たのです。
「何て騒ぎをするんだい。幽霊よりお前の声の方がよっぽど虫の毒だぜ」
平次はもうケロリとして笑っております。
「だって怖い話をするんですもの、私はもう――」