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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(五)金の鯉

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(五)金の鯉 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,062 characters · 276 screens

Aozora Bunko

「今自慢の料理をお目にかけます。ちょっと、御待ち下さいまし」

身を翻すとお紋は、大きい揚羽の蝶のように、ヒラリと襖の蔭へ隠れました。多分お勝手の指図でしょう。

「ね、万事あの通りさ、恐れ入ったろう、親分」

三好屋の隠居は、人の好さそうな眼をしばたたいて見せました。

「御新造の元の身分は?」

平次はそっと囁きました。

「何でも、町芸妓だったということだが、詳しいことは誰も知りませんよ。荻野左仲様が見初めて三千五百石のお部屋様に直して――」

「シッ」

話の最中に、

「まア、内緒話? 私の棚卸しなんか嫌ですよ」

朗らかさと、美しさを撒き散らして、お紋は入って来ました。

それから酒――。

お紋は元が元だけに、すっかり三人を潰してしまいました。灯が入った時は、もう玉山崩れて、足の踏み場もないほどの有様です。

いつもの平次なら、こんなになる前に帰ってしまったでしょうが、お紋の取なしの底に、何か重大な意味がありそうで、ツイ立ちそびれて暗くなってしまったのでした。

ガラッ八と三好屋の隠居が、すっかり潰れて正体もないのを尻目に、平次はそっと庭へ下り立ちました。

誂えたような銀鼠色の朧月夜、春の靄に蒸された梅が匂って、飲み過ぎた頭の芯が痛むような中を、なんの心もなくそぞろ歩いていると、道は不意に尽きて、目の前にかなり大きな離屋が建っ