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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(五)金の鯉

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(五)金の鯉 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,062 characters · 276 screens

Aozora Bunko

巨大な怪鳥のようなものが、平次の胸の上をヒラリと飛びました。

「御用ッ、神妙にせい」

平次は何やら掴んでグイと引くと、一朶の黒いものが手に残って、曲者はパッと飛びました。恐ろしい軽捷な身のこなし。

追いすがる平次は、枕屏風にハタと躓く間に、曲者の身体は、真に一片の黒雲のように、平次の袷を掛けた衣桁へ、サッと消え込んでしまったのでした。

「己れッ」

続いて飛付きましたが、手答えもなく衣桁は倒れて、平次が抱き付いたのは、脱ぎ捨てた自分の袷だけ。

「どうなさいました」

ややしばらく経ってから、物音を聞付けたらしい主人のお紋は、女中に手燭を灯させて駆け付けました。

「あ、御新造、とうとう」

「…………」

「幻の民五郎は、短刀を奪って行きましたよ」

「えッ」

「面目次第もないが、少し油断しました」

銭形の平次も、すっかり恐縮して髷節を叩いております。

「親分、どうしましょう」

お紋は根も力も抜けてしまったように、冷たい畳の上へ、ヘタヘタと坐り込んでしまいました。派手な長襦袢の上へ、大急ぎで羽織ったらしい小袖の紫が、冷たく美しい女中の差出す手燭の中に、またなく艶かしく見えるのでした。