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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(五)金の鯉
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(五)金の鯉 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,062 characters · 276 screens
「八」
その後を見送って、平次は隣の部屋に遠慮しているガラッ八の八五郎を呼びます。
「ヘエ――」
「聞いたろうな」
「障子一重だもの、耳でも塞がなきゃ聞えますよ」
八五郎はニヤリニヤリと膝で這い寄りました。
「それなら言うことはあるめえ、――気の毒だが、また葬いへ行ってくれ」
「やけに葬えが流行るんだね。行きますよ、行くには行きますが、――何を嗅ぎ出しゃいいんで?」
「良庵さんのような、物事に馴れた医者が、せっかくあんなに言ってくれるんだから、念のために皆んなの顔色でも見て来るがいい――こんな霜枯れ時には、葬い酒に酔うのも、洒落ているぜ」
「へッ」
八五郎は平手で額を叩きながら、それでも素直に出かけて行きました。
大徳屋孫右衛門というのは、お蔵前札差衆の一人、先代までは大町人中でも手堅い家風を褒められましたが、孫右衛門の代になると、商売よりは遊びの方が面白くなり、雑俳、楊弓、藤八拳から、お茶も香道も器用一方で齧り廻ると、とうとう底抜けの女道楽に落ち込み、札差の株を何万両かに売り払って、吉原に小判の雨を降らせるという大通気取りの狂態でした。
お蔵前から引越した、松永町の家にだけでも、お柳、お辰、お村と妾が三人、本妻のない気楽さと、諫め手のない無軌道さに、天も恐れず、人にも愧じぬ暮しを続けていたのです。