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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(五)金の鯉
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(五)金の鯉 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 136,062 characters · 276 screens
「銭形の親分さん、とんだ御苦労様で」
主人の市兵衛は、さすがに落着いてはおりますが、今日に迫る五千両を、どう工面して細川様へ納めたものか、その心配に打ちひしがれておりました。
後ろから顔を出したのは、老番頭の嘉助と手代の福三郎、これは遠縁に当る男で、いずれは、大黒屋の姪で、奉公人とも娘分ともなく養われている、お徳と嫁合せて、暖簾を分けるだろうと言われている男でした。
「とんだことでしたね、――これほどの騒ぎを朝まで誰も知らなかったのですね」
「誰も気が付きません」
と主人市兵衛、六十近いが少し肥った、精力的な感じの男です。
「五千両の金が用意してあることは、誰と誰が知っていました」
「店中で知らないものはありません。御領地の熊本から船で送られた、肥後米の代金でございますから」
そう言ううちにも、市兵衛の心痛は目に見えて深まる様子です。
「失礼ですが、それを今日中に納めなさる当てがありますか」
平次の間は露骨で無遠慮でした。
「何とかしなければ、私は頸でも縊らなければなりません」
五千両の現金は大黒屋にとっても大金でしょう。主人の後ろに中腰になっている大番頭の嘉助が、居ても立ってもいられないほど気を揉んでいる様子を見ると、この工面は市兵衛が軽く言うほどの些細なことではないでしょう。